天気晴朗なれども波高し
タイトル |
天気晴朗なれども波高し |
表紙 |
茉乃瀬 桔梗 様
|
頒布日 |
2006/08/13(コミックマーケット70) |
頁数 |
40P |
イベント価格 |
500円 |
自家通販 |
無し(-) |
委託 |
メロンブックス DL(216円) |
outline
聖杯戦争後、衛宮士郎と恋人同士となった遠坂凛。
彼女は士郎と付き合いながら、これまでに経験したことのない新鮮な驚きを経験していた。
それは、非常に充実した日々を提供してくれていたが……しかし、完全に心が満たされるわけではなかった。
心には、いつも苛立ちがあった。そんな風に、心を苛立たせる原因というのが――
というような形の、恋の鞘当てを繰り広げる本です。
sample
「……恋人、か」
思わず呟いたその単語は、何というか……大分、嘘っぽく響いて、我ながら驚いてしまった。いや、嘘っぽいというより、わたし自身が納得できなかったと言うべきか。
……否、間違いではない。わたしと士郎は、完膚無きまでに恋人同士の筈だ。
肌さえ重ねたのだから、恋人と呼んで何ら不都合はないはず。だが、それなのに……未だにこの呼び方には抵抗がある。これは、おそらく――わたしが彼との関係が恋人だということをきちんと認識できていないと言うこと。頭の中のどこかで、そう思ってしまっているから、納得できないのだろう。
それは、随分と……悲しいと感じてしまう事実だった。
† † †
「今日は結構暑いな」
「……そうですね。梅雨という物もそろそろ終わりなのでしょうか」
「そうだな。そろそろ明けてもおかしくないって話だけど」
唐突に発せられたシロウの何気ない一言に、やや詰まりながらも何とか返事をする。シロウは、特に私の声に不審は抱かなかったらしい。それに、ほっと胸を撫で下ろして――もう何度目になるか判らない痛みを心臓の箇所に感じた。
「……っ」
胸の痛みは、すぐに収まったが――痛みと共に発生した、どうしようもない不快感は残り続けた。折角の休日、折角の士郎と二人で出掛ける機会だというのに、これでは楽しめない。何とか不快感を排除しようとするが、それは油汚れのようにしつこく、なかなか払拭できない。
……最近、私はどうも調子がおかしい。シロウに対して、普通に接することが難しくなっている。どこかが、何かに引っかかったように釈然としない感情が澱のように溜まり続けて――彼と普通に接するときにも妙に頭のどこかがざわめき、そちらに気を取られてシロウに対してははっきりと応対できない事がしばしばあった。