Silver Flower - Book -

sister in law War

Cover
タイトル sister in law War
表紙 相模 陸 様
頒布日 2008/08/17(コミックマーケット74)
頁数 36P
イベント価格 500円
自家通販 無し(400円)
委託 メロンブックス DL(216円)

outline

凛が悶々と、イリヤや桜やセイバーに対して、一日焼き餅を焼いたり感情が不安定になったりするお話です。

sample

困ったな、眠れない。
„ 夜、私はいつものように自室のベッドに横になり、目を閉じていた。既に長い時間が経過している。普段なら、もうとっくに眠りに落ちているはずだ。しかし、今日に限って眠気は一向に訪れる気配がなかった。
„ 既に夏が過ぎて秋になり、寝苦しい夜も少なくなってきた。少し前までは、まだ扇風機を全開にしても額に汗が浮かぶくらいの残暑だったのに、最近では空気が肌寒く思える夜さえある。耳を澄ませば、庭で微かに鈴虫が泣いているのが聞こえてくる。室温は低く、さらに少しだけ開けた窓からは、しっとりとした冷たい風が入ってきて、頬を撫でる。お気に入りのデフォルメされた猫の柄が施された長袖のパジャマを着て、薄手の毛布にくるまれば、ちょうど良い案配だ。
„ 今や心地良く眠れる条件は、全て整っている――にも拘わらず、私はなかなか寝付けなかった。
„「……う……ん」
„ 私は、今日出したばかりの毛布を被り直した。少しだけ冷えた体はぬくもりに覆われる。さあ眠ろう。眠ろう。眠ろう。寝ろよ私。
„ ――駄目だ、眠れない。こんなに体中が眠いと訴えているのに、頭の一部分が、寝かせてくれない。
„ 私は、目を薄く開けた。既に闇に慣れた目は、朧気ながら室内の様子を教えてくれる。特に変わったところは何も無い。愛用の鏡台も、壁に掛かった骨董物の時計も、灯りを消す前のままだ。もっとも、それらを確認したところで、どうにもならないのだけど。
„「どうするかな……」
„ ごろんと寝返りを打つ。急な体の捻れについていけず、折角掛かけていた毛布が体から離れてベッドの脇に押しやられていく。しかし、毛布をひっつかまえて、体に掛け直す気にはなれない。考え事をしていた私は、その程度の動作さえ億劫に感じていた。
„ 無理に寝ようとするのは、もう諦めた。この様子では、もう少し眠気が強くならないと眠れないと思う。寝よう寝ようと思っても、気ばかりが急く。益体もない考え事でもしていた方が、精神衛生上、多少はマシだ。ひょっとしたら、現在頭を抱えている問題に解決策が浮かぶかもしれない――そんな事、天地がひっくり返っても有り得ないのは、百も承知なのだけど。
„ 実を言うと、眠れない原因に見当は付いていた。眠れないのは、別に不眠症になった訳じゃない。原因ははっきりしている。その理由は実に簡単だった。私に、ちょっとした悩みがあるせいだ。
„ 原因は士郎の事だ。と言うより、最近、私が心を乱すのはアイツ絡みの事が殆どだったりする。魔術よりも、たった一人の男のせいで心が乱されるなんて、ちょっと前の私なら有り得なかった。だけど、口にするのも恥ずかしいけど、今、私が怒っているのはアイツが原因なのだ。
„「ちょっと士郎が女と一緒にいるだけで嫌だと感じるなんて」
„ 枕を殴りつけてみる。拳に返ってくる柔らかい感触は、気が晴れるどころか怒りが倍増される。何の効果もない、ただ空回っている現実を如実に伝えてきているようで、腹が立つ。
„ そして、そんな事で腹を立てている自分にも腹が立つ。桜達が、士郎と談笑していたり剣の鍛錬をしているだけで、どうしてそこまで怒れるのかと。
„ 全く、救いようがないほど心が狭い。さらに言うと、狭量を自覚していながら、それを抑えきれない自分が情けない。己を律するのが魔術師なのに、それが全然出来ていないわけだから。
„「……はあ」
„ そういった事が頭を巡り、どうしても眠れなかった。それが、ここ何日も続いていた。
„ 全く……いつになったら、心地良く眠れるようになるんだか。
„